背景と目的
研究の背景
近年の大規模な地震災害、例えば、2011年東北地方太平洋沖地震、2016年熊本地震、2023年トルコ・シリア地震、2024年能登半島地震では、本震に前後して、規模の大きい余震が頻発しています。また、近い将来に発生することが予想されている南海トラフ地震は、巨大地震発生から1週間以内にさらに別の巨大地震(後発地震)が発生する確率は平時の約100~3600倍になると試算されており(※1)、大きな地震が繰返し発生することが想定されます。多くの研究者により、頻発する地震により、地盤変形や建物被害が進行することが指摘されていますが、詳細に検証するためのデータが不足しているのが現状です。
地盤の液状化に関する繰返し地震の影響として、大きな本震ではなく、本震後に発生した揺れの小さい余震で、液状化に起因する大規模な噴砂が発生した事例が確認されています。また、過去の地震で激しく液状化して、大きく沈下した地盤は、全体的に土粒子の密度が上昇(=液状化に対する強度が上昇)しているにもかかわらず、大きな地震をうけると、再び液状化することが知られています。その原理について、色々な仮説が立てられていますが、仮説の証明には至っておりません。
地盤被害に起因する建物損傷は、地盤の変形量と強い相関関係があるため、繰返し地震による地盤変形の蓄積も、解決すべき重大な課題の一つです。図1は、2024年能登半島地震の際に、石川県内灘町における水路周辺の被災状況写真です。護岸背面地盤の液状化により、護岸が水路側に数mもはらみだしており、水路の大部分を塞いでしまっている状況が見て取れます。図2は、同じく内灘町の住宅地の被災状況です。戸建て住宅や電柱が大きく沈下・傾斜しています。この地域の住民の方へのヒアリングで、余震の際に家屋や自家用車の沈下が進行したというお話も確認されています。もちろん本震のみでこれほど大きな変形が発生した可能性もありますが、ヒアリングの結果などを踏まえると、繰返し発生した余震により変形が蓄積されたと推定できます。
図3に、繰返し地震、地盤の液状化度および地盤変形の関係を示します。先発地震が発生して地盤の液状化が進行(液状化度が上昇)すると、地盤の剛性が低下して地盤の変形が進みます。この後に、短い間隔(図中の①のタイミング)で揺れの小さい余震が発生した場合、地盤の剛性が低い状態で地震動を受けますので、大きく地盤変形が進展します。一方、地震間隔が長くなると(図中の②のタイミングで余震が発生)、地盤の液状化度が低下して、地盤の剛性が回復するため、地盤の変形量が小さくなります。一方、従来の設計法に基づいて、複数の単発地震動として評価すると、液状化度および地盤変形量を過小評価してしまう可能性が高くなります。したがいまして、繰返し地震の影響を合理的に評価して、被害リスクを適切に評価することが極めて重要になります。
※1:サイエンスポータル(2023):南海トラフ地震の1週間以内に別の巨大地震、最大で「平常時の3600倍起きやすい」 東北大などが試算
https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20230117_g01/
研究の目的
上記の背景を考慮して設定した、本研究の目的は以下の通りです。
液状化後の地盤特性の継時変化を推定する手法の確立
繰返し地震動(マルチイベント)における液状化とそれに伴う地盤変形量を評価するためには、液状化した地盤の特性の継時変化を定量的に推定することが求められます。大きな地震が発生した後、約数週間の間は地震活動が活発となり、大きな後発地震の発生確率が高くなりますので、大きな地震発生~数週間後の期間の地盤特性変化を把握することが特に重要となります。しかしながら、実地震で液状化した地盤の調査は、地震活動がある程度落ち着いてから実施されるのが一般的ですので、大きな後発地震が発生する可能性の高い期間におけるデータは皆無です。本研究では、振動台等を用いて液状化させた地盤の、液状化後の地盤特性を定期的に調査することにより、その継時変化の評価につながるデータを収集します。また、再度その地盤を加振することで、再液状化強度を評価します。
地盤・地中構造物・避難路のヘルスモニタリング技術の開発
衛星・航空写真を用いた広域の被災判定技術開発は急速に進展しており、広範囲の建物の倒壊、斜面崩壊による道路の閉塞状況、地表面の沈下量を計測することが可能となっています。一方、外観で判定できない構造物の損傷や、空から見ることのできない埋設管等の地中構造物の損傷、損傷程度の定量評価をすることはできません。また、はじめの大規模地震の発生から数分~数時間以内に発生する、次の大規模余震や後発地震、津波等の後発災害への対応には適していません。そういった技術の長所を活かし、短所をカバーするため、センサを用いた地盤・地中構造物・津波避難路(住宅から津波避難タワーに避難するまでの経路)の被災状況を速やかに把握する手法の開発を目指します。これらの技術の条件として、センサの設置が容易なこと、評価結果を衛星・航空写真等の他技術による被災判定結果などと相互にフィードバックできるようにすることが重要です。また、将来的には、センサによる被災状況の評価結果に基づいて、都市規模数値解析のパラメータを自動更新して、時々刻々と変化する都市の被災リスクをリアルタイムに評価することが可能になります。
パラメータ設定やモデル化も考慮した数値解析手法の検証
均一な地盤を対象とした実験を実施して、その結果を数値解析結果と比較することで、手法の妥当性および精度検証を行うのが一般的です。その際、詳細に地盤特性を調査し、数値解析手法のパラメータを設定します。しかしながら、実地盤は不均一であり、実際の設計業務では詳細な地盤特性が与えられないことも珍しくありません。本実験研究では、設計レベルから研究レベルまでの地盤調査を行い、パラメータの設定や不均一部分を有する地盤のモデル化の際に生じる誤差も含めて、数値解析手法の妥当性および精度検証を行います。
本研究の全体図を図4に示します。